階段を上る人

日記 11/24(火)

太陽光が
風になびくススキを照らす時、

キラキラと月色の如く
銀色の穂先が
何かの合図のように
たなびき輝く。

美しさにうっとりしたいというのに、

相変わらず溢れんばかりのエネルギーが

運転中には、
心がロケットのように飛び出し
メーターを振り切らんばかりの勢いだ。

だからエネルギーを必死で押さえ込めて
「制限速度を守りましょう。守りましょう。」
と呪文のように唱えつつ 、
目でチラチラと制限速度を確認しつつ
頭の中は一時も休むことなく
戦略会議が開催されている。

ああ、こんなだから
ただ運転するだけで
いつもの10倍疲れて、
もはやエネルギーの無駄使いだ。

このエネルギーを
電気に変換できれば
今月の電気代は
基本料金のみでまかなえる、はずだ。

今日は虎にならずに
少しは人間らし生きられただろうか
と思いながら

もう暗くなってしまった
夜道を走っていると

神社の真っ暗な階段を上っている人がいた。

こんなに暗くては
階段の途中で転んでしまうのではと
車を脇にとめてライトを遠目にして
階段を照らした。

しかし、
無事に階段を上りきっても
その先は、
人が誰もいない暗闇の神社である。

気になって
妖怪の気配を消してそっと追いかける。

目にしたのは、
あまりにも見事な
武士のような『礼』の姿であった。

武道も礼に始まり礼に終わると言うように、
礼は極めて大切だ。

私は最初の礼の姿を見ただけで
勝敗がわかると思っている。

アイロンでもかけたかのような身体は
背筋も手の指先もピンと伸ばし、
ピンと伸びたままで
骨盤を後ろにひき、
そしてピンと折り畳むように

見事な礼を二回していた。

そして。

手のひらをあわせながら
真剣な祈りの後ろ姿を見た時、

こんな誰もいない夜更けに
どうしても叶えたいという
祈りがビンビンと伝わってきた。


離れた場所から思わず
『この人の願いをどうか叶えてください。
そして私の有り余ったエネルギーを
分け与えてください。』
と心の中で祈った。

その人は祈りが終わると
気配を消した妖怪に気づかずに

また真っ暗な階段に向かって立ち去った。

そして妖怪は落ち込む。

もて余すエネルギーだけあっても
それを本当に分け与える力など
持ち合わせていない無力さと
己の愚かさに深くうなだれる。

先日この神社で白猫に出逢った。
おそらく白猫もどこからか見ていて
「妖怪は馬鹿だニャン」と
思っているに違いない。

それにしても、
階段を上る人の礼も見事であったが
あれほどまでに背中からも強い意志が
伝わってくる人も稀である。




ふと、
空を見上げると


白猫の輝く目のような月が浮かんでいた。





月よ、

階段を上る人の願いを

どうか、

どうか、

叶えたまえ。





今夜は『階段を上る』夢

を見ながら






おやすみなさい。




続きは夢の中で……