入道雲の男の子と、風に揺れる女の子

風に揺れる女の子(コスモス)

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皆さんは月に一っぺん位、
大きな入道雲を御覧になるでせう。

入道雲は 
おどけた人のやうな顔をしてゐます。

あれは、
淋しく弟と暮らしてゐるお母さんを

笑はせてなぐさめるために、

月に一度来るときには
必ずお面をかぶって来る
男の子の姿なのです。

一度あのお面をとって見たいものですね。


三島由紀夫(推定10歳〜11歳の時の作)「大空のお婆さん」より―




三島由紀夫が10歳くらいの頃に、
このようなことを書いていたんだなぁ〜と思うと、
何故か、ほっとする。

大人になって、
お面のない本物の鬼を見てしまったのかも知れぬが、

由紀夫少年の目には、
笑わせてなぐさめるために、
お面をかぶって月に一度来る
おどけた男の子の姿に見えていたのだ。

夏の入道雲(積乱雲)は、
やんちゃな男の子が
元気に走り回っているように見えるけれど、

秋の入道雲(積乱雲)は、
確かに、
おどけた男の子がお面をかぶって
笑わせてなぐさめるために
あらわれるのかも知れない。

お面をとった男の子、
本当は泣いているのかも知れない。
照れくさそうにツンデレかも知れない。

それでも、
秋の入道雲は、
おどけたお面をかぶっている。

入道雲(積乱雲)は、
地上と上空の温度差によって、
大気の状態が不安定な時に発生することが多く、
その「不安定を解消しようとして発生する」らしいが、

「不安定を解消するために」、
(笑わせてなぐさめるために)

そう思うと
入道雲がどこか愛おしく
おどけた顔の男の子に
「いつかお面をはずしてもいいよ。」と
声をかけてみたくなる。



そんな入道雲の下で
風にゆられて
コスモスが咲いていた。



泣いた花、お面をはずし、笑った花びら空に開く。


つぼみのお面をかぶったままだった花が、
お面をとって花びらを広げるその瞬間を
人は、なかなか気づかないけれど


花もまた入道雲の男の子のように
笑わせてなぐさめてくれるかのように
咲き乱れていた。



お面をかぶった男の子も
風に揺れている女の子も



お面をとって

今も

どこかで

笑っているだろうか





安心して
おやすみなさい





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ありがとう


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